漫画『伊藤潤二傑作集』の感想・無料試し読み

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『伊藤潤二傑作集』とは

『伊藤潤二傑作集』は、ホラー漫画家の伊藤潤二が雑誌「ハロウィン」や「ネムキ」に発表した作品をまとめたホラー漫画作品集である。伊藤作品の中でも特に人気や評価の高い作品が集められ、全11巻にまとめられている。2011年から2013年にかけて、朝日新聞出版より出版された。

『伊藤潤二傑作集』のあらすじ・魅力

『富江』『うずまき』などの作品が映画化され、海外でも展覧会が開かれるなど、日本を代表するホラー漫画家である伊藤潤二の選りすぐりの傑作を集めたのが本作です。不気味だけれどどこか憎めない少年、双一を主人公にした「双一シリーズ」、その美貌で男たちを翻弄する「富江」が登場する「富江シリーズ」など、伊藤潤二が繰り広げる唯一無二のホラーワールドを存分に楽しめる漫画が数多く掲載されています。伊藤潤二ファンはもちろんのこと、これまで伊藤作品を読んだことのない人にもおすすめの作品集になっています。

『伊藤潤二傑作集』の印象的なエピソード

1巻72話:希代の悪女「富江」登場!『画家』

富江は伊藤作品の代表的キャラクターで、その美貌と、どんなにバラバラにされてもその肉片から再び新しい富江が生まれるという設定で人気を博しています。『画家』は、富江の危ない魅力が一読で分かる秀作です。画家の森光夫は、モデルのナナをモチーフとした絵のシリーズで人気を博していました。個展を開催していたある日、森は一人の美しい女性客を見つけます。その女性客は、森に『モデルを変えたほうが良い絵が描ける』と告げました。

後日、森がナナをモデルにした絵を描いていると、背後から大きな笑い声をともに先日の美しい女性客が現れます。女性は、『森先生はナナシリーズに飽きている』と嘘をつきました。それを聞いて怒ったナナはアトリエを飛び出してしまいます。すると、富江と名乗るその女性は『自分をモデルにして絵を描けばいい』と言うのです。そして、『自分の美しさを絵で表現できるのか』と森に問いかけます。富江の美しさに惚れ込んだ森は、必ず表現して見せると言い切ります。

一週間後、森は富江の絵を完成させました。しかし、富江は『私の美しさの10%も描けていない』と言い、森を無能呼ばわりしたあげく、その場を去ってしまいます。それからというもの、森は、何を描いても満足できなくなってしまうのでした。すっかり富江に惚れ込んでしまった森は富江の絵を描きますが、納得のいく絵を描くことはできません。そんな折、森がバーで酒を飲んでいると、美大時代の同期だった増田が声をかけてきました。増田によると、自分たちと同期の画家・岩田が美しいモデルを見つけたことで良い絵が描けるようになり、画壇で注目を浴びているというのです。

そして、増田は岩田とそのモデルが一緒にいる写真を森に見せます。そこには、確かに富江が写っていたのですが、その顔からもうひとつの富江の顔が生えているという何とも奇妙な写り方でした。驚いた森は、その勢いで岩田の家まで行き、富江のことを問い詰めます。そして、言い争いになり、挙げ句の果てに岩田を殺してしまいました。すると、またもや森の背後から富江が姿を現します。森は富江を自分のアトリエに連れ戻し、再び富江の美しさを表現するため絵を描き始めます。ところが、完成した絵は富江が分裂した姿を描いたものでした。

それを見て富江は最低だと笑います。そのことに激怒した森は、富江を殺害してしまいます。ところが、殺したはずの富江からは新たな富江が生まれるのでした。森が最高傑作だと自身で評価した富江の絵は実際に漫画でも描かれています。富江そのものを表現したその肖像画は必見の出来と言えるでしょう。

3巻68話:どこか憎めない人気キャラ・双一登場!『双一の勝手な呪い』

気味が悪いけれど、どこか憎めないかわいらしさもある小学生、双一が主人公の物語です。場面は深夜のとある杉林から始まります。暗がりのなかで、双一が不気味な表情を浮かべながら人形に五寸釘を打ち付けています。すると、同時刻に双一と同じクラスの大谷が苦しみながら道に倒れてしまいました。次の日の朝、学校では大谷が入院したという騒ぎになっています。五寸釘の呪いが成功した双一は、次にクラスメイトの黒田に呪いをかけようと目を付けます。

再び深夜の杉林に現れた双一は、黒田の名前を呼びながら人形を土に埋めました。ある晩、地主が杉林を訪れると、双一が埋めた人形が見つかります。自分の杉林に勝手に物を埋められ、怒った地主が犯人を捜そうとしていると、すぐ側に本物の人間(黒田)が土に埋まっていたのでした。この双一という少年は、単に自分が気に入らないクラスメイトを勝手に呪いの対象としているのです。普段はうだつの上がらない薄気味悪い少年ですが、呪いの能力だけは本物なので、クラスメイトは双一のせいでさんざんな目に遭ってしまいます。これだけ見ると、ただ不気味なだけの話のように見えますが、この双一少年、お兄ちゃんに頭が上がらなかったり、言葉は間違って使って恥をかいたり、どこか憎めないキャラクターでもあるのです。

黒田の後も、双一はクラスメイトに次々と自分勝手な呪いをかけ続けます。クラスメイトの河合は、トイレの個室に閉じ込められてしまいます。外に出ようとしてもドアが開きません。ふと頭上を見ると、そこには巨大なクモが顔をのぞかせていました。クモは、河合に向かって糸を次々と吐き出します。河合はあまりの恐怖に気絶してしまいます。いつまでもトイレから帰ってこない河合の様子を見に他のクラスメイトたちがトイレに行ってみると、そこにはトイレットペパーでぐるぐる巻きになった河合が倒れていたのでした。

双一は呪いの力だけはあるのでクラスメイトは次々と驚かされるのですが、いつまでも双一の思い通りにはいきません。あとできちんとお仕置きが待っているのです。しっかりオチがついた物語が好きな人におすすめの作品と言えます。物語の伏線がきっちり回収されるのも面白さのひとつです。

4巻80話:幻想的なホラー、『四つ辻の美少年』

霧のなかに現れる美少年の姿に不思議と引き込まれてしまう作品です。舞台となる難澄市では、四つ辻で最初に通りかかった人に声をかけ、自分の運勢を占ってもらうという「辻占」が行われていました。その四つ辻に現れる人物は、見る者を魅了せずにはいられないほどの美貌を持つ少年です。その日も、一人の女子高生が四つ辻で「辻占」をするため、最初に通りかかる美少年を待っていました。霧が深く立ち込め、周囲も見えないほどになったころ、ついに美少年が現れます。女子高生は『私の恋は実るでしょうか』と問いかけます。すると、美少年は『その恋は絶対に実らない』と冷たく言い放って去っていくのでした。

そんな難澄市の高校に、深田龍介という男子高校生が転校生としてやってきます。実は龍介は難澄市に昔住んでいたことがあり、何年かぶりに戻ってきたのでした。難澄市の高校に入ると、幼稚園の時に一緒だった柴山みどりと再会します。放課後、みどりは自分の親友である田中鈴江に龍介を紹介します。鈴江が龍介に辻占が流行っていることを話すと、なぜか龍介はそっけなくなるのでした。

実は龍介には、辻占に関する嫌な思い出があったのです。10年前、引越しで友達と離れ離れになることを嫌がった龍介は、お母さんと喧嘩をして家を飛び出すのですが、いつの間にか辻に迷い込んでしまいます。すると、一人の女性が龍介を呼び止めて『自分とあの人との恋は実るだろうか』と問いかけてきました。君が悪くなった龍介は『そんなもの実らないよ!』と冷たく言い放ち、その場を走り去ってしまいます。しかし、後になって女性の様子が心配になった龍介がさっきの場所に戻ると、なんと女性はその場で死んでいました。

龍介は、女性が死んでしまったのは自分のせいであり、自分が難澄町に戻ってきたことも自分に対する罰なのだと考えるようになります。龍介が自分の過去を悔いていると、その様子を心配に思ったみどりが話しかけてきました。どうやらみどりにも、辻に関する嫌な思い出があるようなのです。それは、10年前にみどりの叔母が辻占をしたあと自殺したというものでした。それを聞き、ショックを受けた龍介は、みどりとの仲もギクシャクするようになってしまいます。

そんな2人の姿を心配した鈴江は、龍介とみどりの仲を占うために、辻占に行くことを決めます。鈴江が四つ辻で待っていると、あたりは次第に霧深くなり、四つ辻の美少年がやってきました。鈴江が、龍介とみどりの仲を修復するためにはどうしたらよいか尋ねると、四つ辻の美少年は『……そんなことより自分の恋の心配をしろ』とだけ告げます。鈴江は、実は龍介のことを初めて見た時から想いを寄せていたのでした。四つ辻の美少年の言葉を聞き、鈴江は自分の気持ちに正直に生きることを決心します。そして、みどりに対して『龍介はもうみどりとの関係を終わりにしたいと思っている』と嘘をついてしまいます。

さらに、そのときから鈴江は龍介に対してしつこくつきまとうようになります。明るく優しかった鈴江の姿はどこへいったのかと思うほど、病的に龍介を追いかけ回すのです。あまりのしつこさに、龍介は自分が好きなのはみどりであり、鈴江の入り込む余地などないことをきっぱりと言い放ちます。半狂乱になった鈴江は、なんと自殺をしてしまいます。鈴江が死ぬ姿を見てショックを受けた龍介は、辻占の真相を探るべく、四つ辻の美少年を探すことにしました。

霧深い辻を歩き回った龍介は、ついに四つ辻の美少年に遭遇します。龍介が美少年後を必死で追っていると、目の前に、10年前に死んだあの女性が現れるのでした。龍介は驚きつつも、自分のやってしまったことについて許しを請います。女性は何も言わず、ある方向を指さします。その方向に龍介が向かうと、時を同じくして龍介を探していたみどりの姿が見つかりました。みどりも四つ辻の美少年を追いかけてここまできたと龍介に伝えます。しかし、当たりを見回しても四つ辻の美少年の姿はどこにもなく、いつの間にかすっかり霧も晴れているのでした。

4巻66話:悲しきホラー『なめくじ少女』

利恵の友人である夕子はおしゃべりなことで有名だったのですが、突然無口になってしまいました。たまに言葉を発しても、どこか舌足らずです。そうしているうちに、夕子はとうとう学校に来なくなってしまいました。夕子を心配し、利恵は夕子の家にお見舞いに行くことにします。利恵が夕子の家に着くと、裏庭では夕子の両親が次々湧いて出てくるなめくじを必死に退治していました。夕子の部屋に行くと、マスク姿の夕子から出て行くように言われてしまいます。次の日も利恵は夕子の部屋を訪れますが、なんと夕子の舌がなめくじとなって口から出ているのでした。それを見て驚いた夕子の両親は、満杯になるまで塩を入れた塩風呂に夕子を沈ませます。なめくじに塩をかけると縮むことを利用した両親の作戦でしたが、なんと夕子の身体自体が見えないほどに縮んでしまいます。

結局、夕子の身体はなめくじが本体となり、夕子の頭部がまるでかたつむりの殻のような格好になって裏庭に生息することになります。その姿を人に見られると、殻となった頭部は悲しいような、恥じらうような表情を見せるのでした。「舌がなめくじになる」というと何とも気持ち悪く感じますが、ラストの夕子の表情は見る者に悲しさや切なさを感じさせます。どんな物語でも一筋縄ではいかないという伊藤作品の魅力を十分感じさせる一作です。

6巻41話:強烈キャラの淵さん登場!『ファッションモデル』

大学生の岩崎は、映画サークルに所属し脚本を担当しています。ある日、何気なく入った喫茶店で雑誌を読んでいると、とてつもなく不気味なモデルの写真を見つけました。その顔は額が異様に大きく、目はカっと見開いて充血し、口は今にも張り裂けんばかりです。その姿があまりに強烈で頭から離れなくなってしまい、写真を見てからというもの、岩崎はサークルで書いている脚本の執筆も上手く進みません。しばらくして、岩崎たちは次の映画撮影のため、ヒロイン役の女性を公募することにします。そして、応募写真の中に珠枝という美少女を見つけ、その子をヒロイン役に決定しました。

ところが、応募してきた女性のなかに、岩崎が喫茶店で見つけた不気味なモデルもいたのです。岩崎は嫌がりますが、面白がった監督の織田は、そのモデルも撮影に加えることにしたのでした。顔合わせのため、実際にモデル本人を呼び出してみると、2m以上はあろうかという身長の大女が現れて『淵です』と名乗ります。容姿は岩崎が雑誌で見たのと同じく、およそファッションモデルとは思えないほど不気味なモデルでした。

メンバーが揃ったところで、岩崎、監督の織田、サークルメンバーの三宅、ヒロイン役の珠枝、モデルの淵は撮影のためワゴンでロケ地へと向かいます。そのワゴンの車内で、淵は不気味な声で笑い出します。その顔をよく見ると、口の中は人間の歯ではなく恐ろしくとがった牙のような物がびっしりと並んでいるのでした。無事、ロケ地に着いた撮影一行ですが、淵のことが怖くなったサークルメンバーたちは淵とあまり関わらず、ヒロインの珠枝のシーンばかりを撮影します。

珠枝ばかりがちやほやされることに業を煮やした淵は、なんと、珠枝を頭からバリバリと食らうのです。驚いて逃げ出すサークルメンバーたちですが、淵は三宅、織田を次々に餌食にしていきます。そして、最後に残った岩崎を見つめながら『やっと2人だけになれたわね』と嬉しそうに言うのでした。淵は岩崎のことが好きだったのでしょうか。果たして、岩崎の運命はどうなってしまうのか、想像するだけでゾっとします。

7巻34話:身の毛もよだつ描写が魅力の『寒気』

主人公の裕史の家の隣には、梨奈ちゃんという女の子が住んでいます。梨奈ちゃんは生まれつきの病気のせいで、ずっと家に引きこもっていました。梨奈ちゃんの部屋には時折男性医師が往診に来るのですが、そのたびに梨奈ちゃんの部屋からは叫び声が聞こえてきます。医者が帰ったあとの夜には、「虫!虫が来る!」と叫ぶこともありました。たまに梨奈ちゃんが窓から顔を出すこともあるのですが、ある日、裕史と目が合うと、裏庭のほうを指差しました。すると、指を指している梨奈ちゃんの腕には無数の穴が開いているのでした。

穴といえば、裕史には祖父の記憶がよみがえります。祖父が亡くなったときのことです。裕史が臨終の祖父の部屋に入ると、そこには全身穴だらけになった祖父が横たわっていたのでした。ある日、裕史は遊びに来た友人の英夫に、梨奈ちゃんと祖父の話をしますが、英夫には迷信だと笑われてしまいます。話しながら2人は、本棚にある裕史の祖父の日記を見つけます。興味本位で読み始めると、そこには、祖父が友人から「翡翠の彫板」(ひすいのちょうばん)を受け取ったことが書かれてありました。翡翠の彫板にすっかり魅せられてしまった祖父は、とてつもない寒気に襲われますが、医者に見せても風邪と診断されるだけです。

ある日、頼んでもいないのに医者が家に来て祖父に注射を打っていきました。それからというもの、祖父の身体中に穴が開き、そこから風は虫が入るようになります。このおぞましい現象はあの翡翠の彫板が原因だろうと考えた祖父は、翡翠の彫板を裏庭に放り投げます。祖父の日記を読んでいると、隣の家で梨奈ちゃんが窓から顔を出し、裏庭を指差すのが見えました。その姿を見た英夫は級に寒気がすると言い、帰ってしまいます。

しばらくして、ひどい嵐の夜がやってきます。ガタガタと鳴る部屋の窓の様子を見るため裕史がカーテンを開けると、そこには身体中が穴だらけというおぞましい姿の男がいました。その男は友人の英夫だったのです。そして、英夫はあの翡翠の彫板を手にしていました。英夫が言うには、裕史と一緒に祖父の日記を読んだ日、裏庭で見つけたらしいのです。あっという間に翡翠の美しさに魅せられてしまった英夫の身体には、だんだんと穴が開くようになりました。身体の穴は翡翠の彫板が原因であることは確かです。しかし、どんなに身体に穴が開こうとも翡翠の彫板を捨てられないと英夫は言います。

すると、いつも梨奈ちゃんの元を訪れる医者が裏庭にやってきました。その姿を見るやいなや、英夫は一目散に逃げ出してしまいます。その翌日、英夫は近くの川岸で遺体となって発見されました。そして、翡翠の彫板の行方はまたわからなくなるのでした。

7巻22話:聴覚を刺激するホラー『中古レコード』

本作は、絵自体にホラー要素はないものの「歌」というモチーフで読者を恐怖に誘う秀作です。主人公の中山は小川の部屋で一緒にレコードを聴きました。中山はそのレコードをすっかり気に入ったので、録音を頼みますが、小川はこれを拒否します。小川は同じレコードを買えと言いますが、レコードのタイトルも歌手も不明です。中山は小川にレコードをどこで買ったか聞きますが、教えてもらえません。ついに2人はケンカになり、中山は部屋を去ります。

中山が出て行ったあと、小川はレコードが盗まれたことに気が付きます。小川はすぐに中山を追いかけ、近くにあった石を中山に投げつけました。石は中山を直撃し、うずくまった隙に小川はレコードを取り返そうとします。しかし、今度は中山が近くにあった石で小川を殴り殺してしまいます。中山は小川の死体にシートを被せます。すると、被せたシートの中からレコードと同じ歌声が聞こえるのでした。小川が死なずに済んだと思いホッとした中山は、レコードを聴くことのできるプレイヤーを探して回ります。

しかし、なかなかプレイヤーを置いている所は見つかりません。やっとのことである中古レコード店に入り、レコードをかけてもらえるよう店の主人に頼みます。すると、主人はレコードを見るなり『そのレコードはこの店から盗まれたものだ』と言って激怒します。盗みを疑われた中山は、急いで近くの喫茶店に逃げ込みます。喫茶店には念願のレコードプレーヤーが置いてあり、中山が持っているレコードをかけてくれたのでした。すると、客の男がレコードの歌声に反応します。

男によると、このレコードのタイトルは『ポーラ・ベルのスキャット』といい、いわくつきの幻のレコードらしいのです。レコードから聴こえるポーラの歌声は、ポーラが車にはねられて死んだ数分後にレコーディングされたものだといいます。つまり、ポーラは死んでから歌を歌ったのです。その話を聞き怖くなった中山は、レコードを持って店を出ますが、喫茶店にいた男が後をつけてきます。中山が走って逃げると、前方から中古レコード店の主人がやってきます。前後をふさがれた中山は塀をよじ登りますが、焦っていたためそこから落ち、近くにあった木材の下敷きになってしまいます。そして、中山が落としたレコードは喫茶店の男の物になりました。

ところが、不気味なことにそのレコードからは中山の歌声と、そして死んだはずの小川の歌声が聴こえてくるのでした。

9巻88話:伊藤潤二作品屈指のビジュアルインパクト!『ご先祖様』

伊藤潤二ならではの特異な発想から生まれた本作は、一度読めばそのビジュアルも話も夢に出てきそうなほどのインパクトを与える傑作です。主人公の理佐は、ある日、牧田秀一という男性に連れられて自宅に帰ります。理佐は記憶喪失になっていて、何も覚えていません。病院へ行って診断してもらうと、脳に異常はなく、精神的なショックによる記憶喪失ということでした。秀一は、気晴らしのために理佐を河原に連れていきます。そこは、秀一が理佐に想いを告白した場所でした。しかし、河原に来ても理佐の記憶は戻りません。そこで、秀一は理佐を自分の家に連れていくことにします。

家に着くと、秀一は、自分の父親が重い病気で寝たきりであることを告げます。秀一は父の部屋をノックしますが、父の返答はありません。仕方なく2人は秀一の部屋へ行き雑談をしていると、部屋の外からズルズルと何かを引きずるような音が聞こえてきました。すると部屋のドアが開き、秀一の父親が仰向けで足から這うようにして姿を現します。この時点で、頭はドアに隠れていて見えません。父親は理佐に『自分が死んだら秀一を頼む』と言い残し、再びズルズルと音を立てて自室に戻っていきました。

その後、理佐は一旦自宅に帰ります。すると、秀一が理佐の家に駆けこんできます。秀一の父親が危篤状態になり、理佐に会いたがっているので来てくれということでした。再び牧田家を訪れた理佐は父親の部屋に入ります。そこにはなんと、父親の頭から延々とつながる人間の頭部の集合体があるのでした。その頭部は牧田家先祖代々の人間のものであり、それぞれ脳まで有しているのです。その異形の姿を見て、理佐はすべてを思い出します。理佐は、かつてこの頭部の集合体を見てとてつもないショックを受け、記憶を失ったのでした。

あまりの恐怖に理佐は部屋から逃げ出します。しかし、秀一は『牧田家の子孫を残すため、結婚してほしい』と言い理佐を追いかけます。逃げようとする理佐ですが、足もとにあるおびただしい数の頭部につまずき、転んでしまいます。すると、牧田は急に頭を抱え、父親の部屋に入っていきました。理佐が恐る恐る部屋のドアを開けると、そこには、頭蓋骨のない父親の身体があり、その横では秀一が先祖代々の頭部を被っています。先祖代々の頭部から『理佐を捕まえろ』と声が聞こえてきます。理佐はあまりの恐怖に失神してしまいます。すると、先祖代々の頭部は『これで牧田家は安泰じゃ』と言うのでした。

11巻116話:蜜の味に狂う人間の欲深さを描いた『潰談』

この話は読んで字のごとく、人が「潰される」話です。伊藤潤二の画力がいかんなく発揮された名作といえます。主要な登場人物は、尾木、杉男、安ミン、リルコ、有枝、亀田の6人です。ある日、尾木が蜜の入った壺を杉男に見せます。その壺は、尾木が南米を旅していた際に、ある部族から土産としてもらった物でした。中に入っている蜜は部族が命がけで採取しているといい、その味は一度なめたら忘れられないほど美味しいといいます。尾木もまさに蜜の味の虜になっていたのでした。尾木は杉男にも蜜をなめるようすすめますが、そのとき、なぜか『気づかれないようになめろ』と警告します。

杉男が蜜をなめると、あまりの美味しさに、杉男も蜜の虜になってしまいます。それ以降、杉男は何を食べてもまずく感じてしまい、あの壺の蜜の味を思い出すようになりました。ある日、杉男と仲間たちは尾木の部屋を訪れます。ところが、部屋のドアを何度叩いても返事がありません。仕方なく開いている部屋の窓から中に入ると、例の蜜の入った壺を発見します。杉男たちが無断でその蜜をなめていると、有枝が部屋の中に漂う悪臭に気づきます。隣の部屋をのぞくと、そこには壁一面に何かが潰されたような跡が広がっていました。

すると、ベリベリと音を立てて何かがはがれ落ちてきます。よく見ると、尾木が着ていた服や、骨や人の顔のようなものが突き出ているのでした。驚いた杉男たちは、壺を持って部屋から逃げ出します。持ち帰った蜜をそれぞれが分け合う杉男たちですが、仲間の安ミンが、蜜をなめたとたん突然壁に身体を叩きつけられ、ぺしゃんこになってしまいました。そして、同じく蜜をなめたリルコも、突然身体をぺしゃんこに潰されます。杉男は、尾木が言っていた『気づかれないようになめろ』という言葉を思い出し、ひょっとして何かに気づかれないようになめれば潰されずに済むのではないかと考えます。

数週間後、世間では安ミンやリルコの変死がニュースになっており、ほかにも同じような被害者が出ていました。その被害者というのも、仲間の亀田の友人ばかりです。亀田は杉戸と有枝に、自分の友達に蜜をなめさせ、何かに気づかれるか気づかれないかを試したと言います。

そして杉男と有枝も、ついに耐え切れなくなり、ボトルに入れておいた蜜を一気飲みしました。すると「ビタン」という音がしたとたん杉男はぺしゃんこに潰されます。それを見て錯乱状態になった有枝は、川の中に入り、これなら「何か」に気づかれても潰されないと叫びながら、蜜をなめます。すると、空から巨大な「何か」が現れ、有枝をぺしゃんこに潰したのでした。人がぺしゃんこに叩き潰された様子にこそ、伊藤潤二の独特の画法が活きています。潰れた死体と聞くと一見とても気持ち悪く感じますが、一本一本の線に至るまで丁寧に描き込まれた絵は美しさすらあります。

『伊藤潤二傑作集』の登場人物

富江

伊藤潤二作品を語る上で絶対に外せない特別なキャラクターである。伊藤が「第1回楳図かずお賞」で佳作を受賞しデビューのきっかけとなった作品の主人公が富江だ。見る者を虜にするほどの美貌ゆえに、周囲の人々を狂わせる魔性の女である。富江を我が物にしたい欲望に駆られた人間から殺害の対象にされるものの、どんなにメッタ斬りにされても肉体の一部から自己再生し、富江に戻れるという性質を持つ。惨殺から自己再生への流れはさまざまなパターンで描かれ、富江が登場する漫画は連作シリーズとして20作ほど描かれている。

双一

富江と並び、連作シリーズ化されるほどの人気を誇るキャラクターである。もっとも、美しさで周囲を翻弄する富江とは対照的に、さえない風貌と情けなさを持つ小学生男子だ。双一が登場する作品は、ホラー要素のなかにもどこかコミカルなギャグ要素も加えて描かれている。伊藤潤二がインタビューで答えたところによると、双一は伊藤の小学生時代がモデルになっているそうである。もっとも、伊藤自身はクラスメイトに呪いをかけたりしていたわけではない。ただ、子供の頃の自分の中にあった一部の黒い部分をモデルにキャラクター化しているそうである。双一が登場するシリーズは10作ほど描かれている。

淵さん

淵さんとは、伊藤潤二傑作集6巻41話の『ファッションモデル』に登場する人物のことである。職業は一応ファッションモデルだが、その身長は2mを越え、カッと見開いた目に、口を開けば鋭い牙が生えそろっているなど、まるでモンスターのような容姿をしている。淵さんはシリーズ化されている作品があるわけではない。しかし、一度見たら忘れられない強烈なビジュアルを持ち、伊藤潤二作品の中でもとても有名なキャラクターである。同じく伊藤潤二作品に出てくるキャラクター・双一を主人公としたシリーズに何回か登場している。脇役ながら、抜群の存在感を見せつけるキャラクターだ。『噂』という作品では淵さんと双一が恋人同士になり、やがて2人には子供ができ、その子供が別の漫画に登場するなどしている。
淵さんはとても嫉妬深い。『ファッションモデル』では美少女ヒロイン役の珠枝を食い殺すが『ファッションモデル・呪われたフレーミング』という作品では、新人モデルを殺してしまう。その殺され方は、手足と下半身が切断されるというおぞましいものであった。そもそも、恐ろしい姿形の渕さんが、なぜ、どうやってモデルになれたのか、普段はどのような仕事をしているのかなどについて作品では描かれない。もっとも、そのような謎の部分が、淵さんというキャラクターの不気味さをより引き立たせているのだ。

四つ辻の美少年

深田龍介を主人公とした一連のシリーズに登場する不思議な存在である。背が高く痩身の美少年で、霧深い町の四つ辻に現れ、辻占をする女の子たちに冷酷な「お告げ」をしていく。お告げを受けた女の子たちは何かに憑かれたように狂い、最後には死に至ってしまう。四つ辻の美少年自体は特に派手な行動をするわけではなく、言葉を一言発するだけだ。たったそれだけなのに、少女たちを必ず死に追いやるというところに、得体の知れない恐ろしさを感じさせるキャラクターである。

シリーズの第3話『影』では、主人公の龍介が、四つ辻の美少年は自分の分身ではないかと疑う姿が描かれる。10年前に辻で女性が死んだことに責任を感じているがゆえに、そのような考えに至ったのだ。結局、真相は分からずじまいであるが『余話』という作品では、辻に『白服の美少年』なる人物が登場し、辻占をする人たちに救いの言葉を与えていく。その姿は、辻占をする者に死を与えていた四つ辻の美少年とは正反対のように描かれる。

『伊藤潤二傑作集』の世界

辻占

『四つ辻の美少年』に出てくる用語で、日本で古くから行われている占いの方法である。夕暮れ時に辻(交差点)に立ち、そこを通る人々が話す内容を聞き、未来の吉凶を占う。作品中では、辻占に行った女の子たちが最後には必ず自殺してしまうという不吉な行いとして描かれる。

彫板(ちょうばん)

「えりいた」とも呼ばれ、文字や図柄を彫刻した板のことである。木版印刷を行う際に使われる。『寒気』に登場する「翡翠の彫板」は、主人公の祖父の戦友が古物商から譲り受けた物であり、実のところ何に使われていたのかは謎である。

十人並み

本来の意味は『才能や容姿が良くも悪くもない普通のレベルであること』である。しかし、伊藤潤二傑作集に出てくる小学生・双一はこの言葉を『人が10人集まったくらいのパワーを持っている』という意味だと勘違いし、恥をかく。双一の憎めないダメさが分かりやすく表現された場面となっている。

壺の蜜

『潰談』で登場人物たちを狂わせるアイテムである。その蜜はとある部族が住む森の木から出る樹液で、とても貴重なものであるという。その味は、一度味わうとほかの食べ物がすべてまずく感じるほどの美味しさであり、舐めることを我慢できなくなる。しかし、蜜を味わったことが正体不明の「何か」に見つかると、その者は一瞬のうちにミンチになって殺されてしまう。死を目の前にして「食」という欲望に勝てるかどうかを考えさせるモチーフとして登場している。

ポーラ・ベルのスキャット

『中古レコード』に出てくるレコードのタイトルである。このレコードにはモデルがあり、男女アカペラボーカルグループの『スウィング・シンガーズ』の音楽がイメージの元になっている。伊藤潤二のインタビューによると『中古レコード』はベスト5に入るほど気に入っている作品だそうである。

伊藤潤二コレクション

『伊藤潤二傑作集』に収録されている作品のいくつかは、2018年1月にTOKYOMXにてテレビアニメ化されている。そのアニメシリーズのタイトルが『伊藤潤二コレクション』である。各話がオムニバス形式で放送された。都合上、原作とはストーリーを多少なり変えているものもあるが、大筋は原作を忠実に再現したストーリーとなっている。双一役を三ツ矢雄二、四つ辻の美少年役を緑川光が務めるなど、人気キャラクターをベテラン声優が演じているのも特徴の一つである。本アニメは、監督の田頭しのぶが伊藤潤二ファンであることから企画が立ち上がり、実現となった。

ネムキ

伊藤潤二がホラー漫画を発表していた少女向け漫画雑誌である。奇数月刊行だったが、2013年1月号をもって終了となった。ネムキはもともと『眠れぬ夜の奇妙な話』というタイトルだったものを、略してネムキとしたものである。ホラー漫画を中心に、SFやファンタジーなど幅広いジャンルの漫画を掲載し、少女のみならず大人にも人気を博した。執筆していた漫画家は、伊藤潤二のほかにも、今市子、川原由美子、波津彬子、諸星大二郎などの人気漫画家が名を連ねる。

ハロウィン

ネムキと同様に、伊藤潤二が漫画を発表していた雑誌である。1986年に創刊以後、月刊誌として発行していたが、1995年に休刊となった。伊藤潤二のほかにも、御茶漬海苔、永久保貴一、JETなどのホラー漫画家が作品を発表していた。姉妹誌として『ほんとにあった怖い話』がある。

伊藤潤二恐怖美学体験大展

2015年12月に台湾で開かれた展覧会で、伊藤潤二の作品世界を見るだけでなく、実際に体験、体感できる展覧会である。会期中の3カ月だけで8万枚ものチケットが売れ、台湾の後は上海、香港、広州、成都、北京、重慶を巡回した。『伊藤潤二傑作集』に登場する双一や富江といったキャラクターの等身大フィギュアが展示されたり、作品に出てくる建物を再現した3Dデザイン図が置かれたり、SNS映えする作りが人気を博した。また、大きな見どころのひとつとしてAR体験があり、立体的に動き出す音声付きの漫画の世界を楽しめるといった展示も行われた。

展覧会に先立ち、伊藤潤二本人が参加するファンミーティングが開かれたが、そのチケットは発売開始5分で完売となるほどの人気ぶりであった。このように、伊藤潤二は日本のみならず、海外でも根強い人気を誇っているのである。

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